メンネルコール広友会札幌演奏会
1994年4月30日(土)6:00PM 開演
札幌サンプラザホール
I. 男声合唱による「日本抒情歌曲集」
林光 編曲
指揮 牛尾孝
ピアノ 廣瀬康
演奏 メンネルコール広友会
箱根八里・早春賦・叱られて
待ちぼうけ・浜辺の歌
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II. 男声合唱組曲「戦旅」
伊藤桂一 作詩 高田三郎 作曲
「或る夜のこころ-智恵子抄より-」
高村光太郎 作詩 清水脩 作曲
指揮 足立光博
ピアノ 江田ゆかり
演奏 NOVA男声合唱団
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III. 男声合唱のための「アイヌのウポポ」
近藤鏡二郎 採譜 清水脩 作曲
客演指揮 北村協一
演奏 メンネルコール広友会
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IV. 男声合唱組曲「樅の樹の歌」
尾崎喜八 作詩 多田武彦 作曲
客演指揮 北村協一
合同演奏
「アイヌのウポポ」解説
1992年は国際先住民年だった。日本においても、アイヌ民族の歴史と現状について、シンポジウム や展示会や図書出版を通じ、めざましく理解が広がった年だった。
かつて、1950年代前後にも、アイ ヌの伝統文化に対して世の関心が集まったことがあった。『アイヌのウポポ』もその時期に、アイヌ 民俗独自の合唱音楽への関心から生み出された男声合唱組曲である。
「ウポポ」とは本来「湧き立つ ように皆でうたい合う」という意味で、単純に「歌」の意味にも使われる
札幌に住む音楽・言語研究者、近藤鏡二郎(けいじろう)氏が、1960年、音楽之友社から小冊子 『アイヌの歌―民謡と解説物語―第1集』を出版。それに掲載された楽譜を見た清水脩氏が、6曲を 選んで合唱曲に編曲した。その際、近藤氏の曲集には日本語の歌詞が付されていたのだが「同氏にた のんで、すべてをアイヌ語にした。しかし、中には原歌詞の意味不明のものもある。出来るだけ調べ ていただいたが、どうしても解らないものはそのままにした」という。
そのようにして『アイヌのウ ポポ』は1961年10月に完成、同年12月3日に立教大学グリー・クラブにより初演された。 民俗音楽の原態を尊重した清水氏の姿勢は、今日の目から見ても評価されるべきだろう。
【1 くじら祭り】フンベ・ヤンナ(フンボエ)、ベシタ・ヤンナ(フンボエ)、イン・カノ・ウタル(フンボエ)、サパ・イン・カル(フンボエ)。 フンベは 鯨。海岸に打ち上げられる鯨は「寄り鯨」と呼ばれ、丁寧にまつられてから貴重な食糧と された。鳴き声は寄り鯨をいつも最初に発見するカラス。その声を聞いて、「鯨が浜に上がったよ。 目のよい人たち、岬で見てきておくれ」と言いあう場面が、そのまま歌詞にとりこまれている。
【2 イヨマンテ(熊祭り)】ハエクデソオロ、(ハ!ハ!)、ハウオ、ハエタアタ ハエクデランナ、(ハ!ハ!)、ハウオ、ハエタアタ アイヌの熊祭り。子熊を一~三年育てておいて祭りの中心に据え、歌や踊りで喜ばせてから、あつ く礼拝しながら花矢を射てついには首をしめて殺し、解体して頭蓋骨を飾り立てる。それから祝宴と なり、歌や踊りや物語が夜を徹して続けられる。熊の魂は熊の国に帰って、充分にもてなされたこと を仲間に語る。それによって熊たちは、くりかえし人間の世界にやってきて獲物となるのである。こ の歌は檻の中の熊を元気づける歌だというが、歌詞の意味は不明。
【3 ピリカ ピリカ】ピリカ・ピリカ、タント・シリ・ピリカ、 イナン・クル・ピリカ、ヌンケ・クスネ 「ピリカ」とは好い・美しい・優れたという意。「タント・シリ」今日の天気は。「イナン・クル」 どの人。「ヌンケ・クスネ」えらぶ・つもり。つなげると「今日は好いお天気だ、どなたが好き、え らんであげよ」となる。かつて雪村いづみが歌って広く知られたアイヌ民謡のわらべうた。
【4 日食月食に祈る歌】チュプ・カムイ、ホイ、エ・ライ・ナ、ホイ、ヤイヌ・パ、ホーキワホイ 直訳すると「光の神よ!あなたは死んでしまわれた!みな祈っています!」。近藤氏の解説によれ ば、電気の通じないアイヌの村で90歳近い老婆から聞いたという。
【5 恋歌】(ヤイ・サマネナ)、サマニ・カシ、ク・オソロシ、エヤミ・チカプ、コリテンリテン、 クコロ・ポン・ユポ、ウタント・オッタ、ネプ・モンライケ これはアイヌの民謡の中で「ヤイ・サマ(叙情歌)」と呼ばれる様式。周囲から「ヤイ・サマネナ」 と掛け声をかけられて、誰かが心の内を即興で歌う。この歌詞は「わたしは仮小屋の横木に腰をおろ し、カケスのさえずりを聞く。わたしの大事な恋人はいまごろどんな仕事をしてるのか」と歌ってい るが、日本人により強制労働にかりだされたアイヌの人々の、つらい歴史を背景にしているらしい。
【6 リムセ(輪舞)】(歌詞省略) 祭りの夜などに、輪になって踊りながら斉唱または輪唱される歌を「リムセ・ウポポ」という。音 頭取りがいて自由に歌と振りを変化させる。近藤氏は10種のウポポを一連の曲として採譜し合唱曲に 編曲、みずからNHK札幌放送合唱団を指揮、初演した。清水氏による編曲もそれを引き継いでいる。 歌詞はほとんど意味を持たないはやし言葉と思われるが、後半には鶴の鳴きまねが入る。