第23回定期演奏会

 

日時:2005年5月22日(日) 13:00開場 13:30開演

 

すみだトリフォニーホール

 

1 Missa aeterna Christi munera  

 

  G. P. da Palestrina 作曲

 

  指揮 藤井宏樹

 

  I. Kyrie  II. Gloria  III. Sanctus  IV. Benedictus

 

  V. Agnus Dei I  VI. Agnus Dei II

 

2 4つの宗教曲

 

  Anton Bruckner 作曲

 

  指揮 松﨑隆行

 

  I. Ave Maria  II. Iam lucis orto sidere  III. Locus iste  IV. Inveni David

 

 

3 男声合唱組曲「草野心平の詩から」

 

  草野心平 作詩  多田武彦 作曲

 

  指揮 藤井宏樹

 

  I. 石家荘にて  II. 天  III. 金魚  IV. 雨  V. さくら散る

 

 

4 男声合唱・ピアノ・パーカッションのための「起点」(委嘱初演)

 

  木島始 作詩  信長貴富 作曲

 

  指揮 藤井宏樹  ピアノ 前田勝則  パーカッション 外間弓子 加藤恭子

 

  I. 起点  II. 声立てず内部に潜んで  III. 飛ぶものへの打電

 

(アンコール)

 

  鎮魂歌へのリクエスト(『新しい歌』より)(信長貴富 作曲)

 

       指揮 藤井宏樹

 

(エール)

 

  ディオニュソスの息子たち(関裕之 作詩  多田武彦 作曲)

演奏会に寄せて

 

音楽監督  藤井 宏樹

 

 作品の創造について以前、作曲家の新実徳英氏が語っていたことをふと思い出した。作曲という作業は、一見すると純粋な創造行為のように思われがちだが、実際はそうでなく、自らが体験し、あるいは想念した過去の時間が音という形に昇華されて、また改めて現われてくる、ということなのだそうだ。

 今回素晴らしい作品を書いてくださった信長さんは三十代前半、たぶん広友会の団員のかなりが父親、あるいは祖父の世代に近いはず。「起点」という作品にはこうしたことが大きく関わっているに違いない、と私は思う。それはこの作品の音楽的なスタンスを見ても想像できる。私も含めて、このような内容の言葉には、真実を語るだけの声が必要だ、またそうあってほしい、という願いを私などは持ってしまう。信長さんもそうなのかもしれない。

 私たちには戦争の体験は、ない。しかしそのことを繰り返す愚かさを憎み、否定していくだけの念いは、過去に何度も出会ってきた人達や、様々な作品との関わりで、今日もこの手の中にある。そして広友会一人一人のその手にも。創造が新たな誕生を見る場だとすれば、それは私たちのそれぞれが持ち寄った「今」が深く関わっているに違いない。

ごあいさつ

 

代表 伊藤 俊明

 

 みどりの季節、かぐわしい風に誘われて、本日、第23回定期演奏会を迎えました。ご多用の中、ご来場下さいましたみなさまに厚く御礼申し上げます。

 初夏が過ぎて真夏日が来る頃、今年は原爆被爆60年の日を迎えます。そして本日の演奏会は思いがけず、広友会のルーツ、広島を思い起こさせることとなりました。それは、本日演奏いたします委嘱作品「起点」の作曲家、信長貴富先生が、創作のモチーフの中に私達のルーツを想起されたからでありました。私達へのご配慮とともに、記念の創作曲を賜りました信長貴富先生に、心から謝意を表する次第です。

 振り返って26年前、創立当時の団員12名は、かつて青春時代を広島で過ごし、広島メンネルコールで男声合唱を熱唱した仲間でありました。被爆25周年に当たる昭和45年の演奏会で、故・森脇憲三先生の創作曲、委嘱作品「碑」を溢れる涙とともに歌った感動は、広島に生きてきたものの涙の感動でした。やがて、このステージを最後に相次ぎ東京へ転勤することとなり、そしてある日、再び集い歌い始めました。広友会の誕生、今から26年前のことでした。

 「起点」はヒロシマを描写しています。広島をルーツとする広友会がこれに響き合えることを自ら願うものです。戦時に多感な幼年期と少年期を過ごした多くのシニアー団員はもとより、戦時を知らない若い団員ですら、たとえ広島を知らなくとも、ヒロシマは知っていると思うからです。

 戦争の悲惨な情景に出会うとき、平和への希求を強くします。憤りや憎しみが昇華したあとに残るものは「祈り」の世界でしょうか。本日演奏しますPalestrinaやBrucknerの教会音楽の作品を通して、安らぎと喜びの世界をお伝えすることが出来れば、と願っています。

 もう一つ、広友会のこの一年の大きな喜びは、仕事のため長く離れていた団員が、久々に復帰してくれたことでした。ふるさとの味は多田作品「草野心平の詩から」であったかも知れません。団員にとって広友会が、いつも故郷のような存在でありたいと願いながら、活動を続けてまいります。

 最後になりましたが、この一年もまた、音楽を通して新しい世界を私達に導いてくださいました音楽監督・藤井宏樹先生はじめ、委嘱作品「起点」のピアノ、パーカッション奏者の諸先生方、そして私達の側にあってピアノ伴奏に止まることなく、練習をリードして下さいました金子信子先生に深甚の謝意を表します。